コラム

2024.12.24 ヒジュラ〜「第三の性(The Third Gender)」と呼ばれる人たち(国際学部 准教授 南出 和余)

 インドやバングラデシュ、パキスタンなどの南アジアには、昔から「ヒジュラ」と呼ばれる人たちがいます。男の身体をもって生まれてきたけれど、性自認的には男女どちらでもない人たち。個人差はありますが物心ついた頃から自他共にその自覚がある人も少なくありません。「ヒジュラ」とはヒンディー語で両性具有者を意味します。ヒジュラたちは通常サリーを着て女性の格好をしていますが、身体的には男性あるいはインターセックスである場合が多いと言われています。
 ヒジュラは、ヒンドゥーでもイスラームでも古くから存在が確認されており、その境界的(リミナリティ)な立ち位置は超自然的な力を有するとされ、例えば子どもの誕生儀礼にヒジュラが呼ばれて踊りを振る舞うなどの慣習もありました。逆に、ヒジュラの超自然的な力は凶の力にもなりうることから、社会から忌み嫌われることも少なくありません。バングラデシュの首都ダッカを歩いているとヒジュラに出会うことがよくあり、路上で金銭を求められます。人々はヒジュラから金銭を求められるとほぼ必ずお金を渡します。それは「施し」ではなく、ヒジュラに「睨まれる」と厄に苛まれるので、人々は決してヒジュラに対してノーと言わないのです。
 私たちの世界は「男/女」「大人/子ども」「右/左」「内/外」「善/悪」「白/黒」というふうな二項対立で物事を捉えて、そこにある種の安定感を感じがちです。その間にあって「どちらでもない」ことに対する不安定感を嫌う(頭の)硬い人も少なくありません。忌み嫌われながらも祝いの席に呼ばれたり怖がられたりするヒジュラたちの存在と南アジアの人々の対応は、「シロクロはっきり」できない現実社会への対応と包容を示しているようにも思います。

※ヒジュラに関心を持った人は読んでみてはいかが?
國弘暁子2009『ヒンドゥー女神の帰依者ヒジュラ―宗教ジェンダー境界域の人類学』風響社

執筆者:
ジェンダーインスティチュート委員
国際学部 グローバル・スタディーズ学科 准教授 南出和余

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