五嶋 みどり
11歳でニューヨーク・フィルとの共演でデビューして以来、世界のトップ・ヴァイオリニストとして活躍している。南カリフォルニア大学で教鞭をとるほか、1992年以降、日米で「Midori & Friends」「NPOミュージック・シェアリング」「Midori Center for Community Engagement」等の組織を設立。社会、とりわけ子どもたちに音楽を浸透させるための活動を精力的に展開している。
五嶋みどり公式ホームページ:http://www.gotomidori.com
社会には、そこで生活する人の間に基盤となる何らかのコモングラウンドが必要ですが、技術革新やグローバル化が進み、コミュニティー内でコモングラウンドを見つけることが難しくなってきているのが現状です。コミュニケーションの必要性と有用性が認識されている現代において、言葉を使わずにコミュニケーションの基盤となるコモングラウンドを提供できる可能性のある音楽の潜在価値は、益々高まってきています。
音楽にコモングラウンドの構築機能があるとすれば、音楽をコミュニティーに浸透させていくことが必要であり、それを実際に遂行する音楽家が求められます。「アウトリーチ」は音楽をコミュニティーに浸透させる有効な手段ですが、ノウハウも必要ですし、継続するためには活動の基盤も必要です。音楽家の中には、演奏はできるけれどもアウトリーチ活動はできないという人もいます。今後は、「音楽演奏」だけでなく、コモングラウンドの構築に貢献できるような人材を育てていくことが重要な課題だと思います。
私が関わるアウトリーチ活動では、「本物の音楽(質の高い演奏)」を聴かせること、そして「本物の音楽」に触れさせることを信条としていますが、アウトリーチ活動が単に音楽家による出張演奏会に終わることなく、受け入れ側と音楽家がパートナーシップを組み、最大限の効果をもたらすことができるように、対等な立場で音楽教育について話し合い、協力しあえる関係を築くことも大切です。
神戸女学院では、津上先生を中心にアウトリーチ活動に積極的に取り組まれ、いち早くカリキュラム化されました。アウトリーチ・センターも開設され、サポート体制も整い、今後益々充実した活動が期待されます。6月に私が理事長を務める『ミュージック・シェアリング』の活動でご一緒させていただいたり、その後の懇親会で議論を交わした学生の皆さんは、アウトリーチ活動に真摯に取り組まれており、大変心強く感じました。
音楽家は音楽活動だけ行うというのではなく、コミュニティーの中に生きる一人の人間として、自己の様々な可能性を幅広く追求し、コミュニティーの理想の姿を常に意識して、社会に貢献していこうとする姿勢が、現代の音楽家に求められている姿であると思います。
どうぞ神戸女学院の皆さんも、自分の可能性を信じ、専門以外のことにも関心を持ち、人間の幅を広げて、謙虚に、他人とのコミュニケーションを大切にし、積極的にコミュニティーに貢献していっていただきたいと思います。
五嶋 みどり